松井太郎 著 ”遠い声”
2017年 07月 03日
松井 太郎氏1917年神戸に生まれ 19歳で一家ブラジルに移民ブラジル サンパウロで農業に従事。還暦をに機に小説の執筆を始める。
土色と赤の素朴な装丁の”遠い声”左半分の土色は農作業袋の荒い生地、右半分の赤はブラジルの赤土を表しているよう。味のあるペン画は作者の物。お世辞にも洒落た装丁といえませんが気になる表紙。さらに読者に挑むようにブラジル日本人作家 松井太郎と印刷されている。それだけで 泥沼のような異国移民の人生を紐解く引導を渡された気がする。
誤解を招くのを承知で敢えて表現するならば本から発する並々ならぬ引力に惹かれてしまった。こういう体験は久しぶりだ。手に取って最初の行を目で追ってみる。抑制された文体そのものは乾いていながら文面から伝わる熱量で
一気にブラジルの熱帯気候の湿った空気に取り囲まれたような錯覚を覚える。
14編の短編と1篇のブラジル風俗詩の訳編には土俗的な市井の日常が描かれている。登場する人物たちはブラジルに入植した日本人コミュニティーで生きている人々。狭くて 他者との垣根の低い濃い人間関係が緊張感を孕みながら淡々と生活を営んでいる。家族も他者も自分も濃く深く絡み合いながらどこか 心を置いてきたような諦念を感じさせる日常。そして 知らないうちに遠い海の沖に連れてこられたように不幸で身動きとれないままに 唐突に終末を迎えるという展開。不条理すぎるやろ~と突っ込みを入れたくなりますわ。
Inter netに比べ本媒体が情報として鮮度を失った現代読みたいと手に取る本が少なくなり自然と本を読まなくなっている。駄目だよね・・・だからますます 脳みそがスカスカになってまうわ。これから 積極的に本探しの旅に書店に行きます。
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