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映画 ”フランス組曲”

1942年ユダヤ系ロシア人の女流作家イレーヌ・ネミロフスキーが
アウシュビッツの収容所にて命の灯を消された。
ドイツの占領下 人知れずに書きためた小説の原稿は
トランクに入れられたまま 娘に託され
発表されなかったが 60年間の封印を解かれ 
世に出された途端
ベストセラー小説となった。

原作は
様々な階級の人々が パリ陥落前に
地方に疎開する大脱出(エクソダス)を多重に描いた”六月の嵐”と
ドイツ軍が駐留された村で 思いがけなく
敵と味方で有りながらドイツ人将校と思いを通わせた人妻のドラマ
”ドルチェ”の2部構成になっている。
映画は後半の”ドルチェ”が素地になっているが
安っぽいメロドロマでは終わらなぬ一筋縄でいかない
人間劇が織りなされている。

映画 ”フランス組曲”_c0311729_10405647.jpg

http://francekumikyoku.com/

映画で戦争に直面した人間の普遍性を描くために
歴史的な事実は極力排除されたという。
例えば ドイツ軍が侵攻時
ハーケンクロイツの旗が映し出されるのは一度だけだ。
ナチスの脅威だけで 戦争を語るのを極力さけたことで
安直な反戦映画でない道を選ぶ。

フランスの静かな片田舎で
戦時下の悲惨さはないけれど
人々は息を顰めるように生きている。
ドイツ軍が進行することで よりストレスは増し
隣人同士は互い密告しあい 一触即発の緊張感が走る。
人妻リュシルは 冷酷な姑との同居しつつ 戦地へ赴いている夫の
帰りを待っている。

片田舎の静けさの中
むせかえる様な夏が盛りを迎える。
その静かさを破る戦争の暴力性
突然 戦時下という非常時で
一人の人間の内側に共存する聖と俗
善と悪が呵責なく描かれた映画。
こんなに素晴らしい作品なのに
封切り前の予告もなく 
原作者の作品は 以前から愛読していたにもかかわらず
見逃すところでした。
人間の本質をえぐる 心を揺さぶる映画を見てみたいという方
この映画を見ないと後悔します。
株の買い煽りは絶対しないけど この作品は煽っちゃう。
”フランス組曲”を見ずして 2016年の映画は語れない。
できれば原作も読んで!

映画 ”フランス組曲”_c0311729_20123505.jpg


映画の最後に作者の原稿がスクリーンいっぱいに映し出される。
ごわごわした粗紙にびっしりと書かれた文字。
彼女が戦時下 観察し創作した人々の命を書きためたいという執念。
その思いは時代を超えて かならず伝えられるのですね。














by akawak | 2016-01-13 20:52 | Movie